2025年夏、中国のEC大手JD.comが発表したのは、ドイツのCeconomy(MediaMarkt・Saturnの親会社)の株式57.1%取得の提案です。
提示金額は1株あたり €4.60、直前株価に23%のプレミアムを上乗せして、企業価値は約22億ユーロ(約25億ドル)。取引は規制当局の承認待ちで、完了は2026年上半期の見込みです。さらにJD.comは、既存ブランドのMediaMarkt・Saturn(メディアマルクト ウント ザトゥルン。通称:メディアマルクト)・経営陣・雇用を少なくとも3年間維持する方針を表明しています。

2025年4-6月期の決算では、JD.comは売上高が過去3年で最大の伸び(前年比+22.4%)となる3,567億元(約149億8,000万ドル)に到達しました。JDリテール部門も20%超の成長を果たし、アクティブユーザー数や購入頻度も7四半期連続で2ケタ成長を続けています。特筆すべきは、新規事業(フードデリバリーやAI投資)、物流基盤、海外展開に積極的な投資を続けている点です。中国国内での大型セール「6.18」では、政府の消費刺激策や値下げキャンペーンも奏功し、こだわりの品質管理や配送スピードが評価され、結果的に消費者の支持を獲得しています。
MediaMarktは、ドイツ発の家電量販店です。イタリア、ポーランド、スペインをはじめとする欧州11か国に1,000店舗以上を構え、欧州最大の家電量販チェーンと言われています。EC販売も好調で、2022~2023年度のマーケットプレイスの取引量は1億3,700万ユーロ(約1億6,000万ドル)に達しており、2026年には7億5,000万ユーロ(約8億7,800万ドル)に成長すると予測されています。
狙いは中国向け販売よりも「欧州市場制覇」
MediaMarktは、2010年に1度中国へ進出し店舗展開を果たしましたが、2013年に全店撤退している過去があります。今回の株式取得の提案が実現したら、MediaMarktは再び中国ユーザーへの販路拡大となるのでしょうか?
しかし、現時点で直接的な中国販売拡大は未発表です。今回の主目的はむしろ、欧州市場への本格進出とブランド力確保、欧州でのオムニチャネル(EC×店舗)戦略の強化、ロジスティクス最適化による配送短縮にあるようです。
すでにJD.comは中国国内で5億8,900万以上のアクティブユーザーを抱え、550以上の最先端倉庫を運営しています。AIによる在庫予測・自社配送を武器に、商品を数時間〜24時間以内に届ける仕組みを持っているので、これが欧州に輸入されれば、MediaMarktのネットワーク(1,000店舗・11カ国・5万人雇用)と結合し、欧州での「即日配送」が新しい標準になる可能性があります。
Amazonへの直接的な挑戦状
Amazonは欧州でもEC覇者ですが、弱点は「リアル店舗網」です。一方、MediaMarktは大都市中心地から郊外まで圧倒的なリアル拠点を持っていますので、仮にそれらをJD.com式の即時配送拠点に変えれば、顧客はオンライン注文から数時間で商品を手にでき、Amazonとの差別化が一気に進みます。
JD.comは今後、MediaMarktブランドで欧州市場にソフトランディングした後、配送速度向上、在庫連携、店舗とオンラインの統合を進めながら裏側のEC基盤・物流をJD仕様に刷新。ゆくゆくは中国ブランドの家電・ガジェット・アパレルなどを展開して、JD.com独自商品の混入を開始しながら、JD.comブランドを欧州で定着させていくのではないかと予想します。
この手法は、越境EC市場ではよくある「現地ブランドの看板を借りて信頼感を得た後、自社色を強める」戦略の典型です。
越境EC視点で見える未来
もしこの統合が予定通り進めば、欧州市場への中国ブランド流入が加速し、今までAmazonが優位だったカテゴリーにも一気に参入するでしょう。また、大都市では即日、その他の地域でも24時間以内の配送が当たり前となる、ECの配送スピードが新基準になりそうです。
また、欧州顧客がMediaMarktでの買い物をきっかけに、自然とJD.comの商品群にアクセスしていくことになるでしょう。越境ECビジネス的には、これは単なるM&Aではなく、欧州ECの競争環境を塗り替える「物流とブランドの融合戦略」と言えます。
おわりに
JD.comによるMediaMarkt買収提案は、表面的には「中国企業の欧州進出」ですが、中身はもっと戦略的です。オンライン・オフラインの垣根を消し、配送を数時間単位に縮め、現地ブランドの信頼感を利用しながら、中国製品を欧州市場に浸透させる―この流れが進めば、欧州ECの勢力図はAmazon vs. JD.comへとシフト、消費者はその競争の恩恵(=スピードと価格低下)を受けることになるでしょう。
当社の越境ECプラットフォーム「j-Grab Mall」は、今夏よりJD.comへ連携を開始しました。5億8,900万以上のアクティブユーザーを抱える中国市場へ販路を拡大すると共に、JD.comを経由した新たな欧州への販路拡大の道筋が、近い将来できるかもしれません。越境ECの新時代を見据えて、今から準備を始めまていきましょう!
参考文献:
El Amazon chino compra MediaMarkt y entra en Europa con más de mil tiendas físicas(Madridinforma)
La ‘bestia china’ del comercio online que ha comprado MediaMarkt y amenaza a Amazon en Europa: así lo cambia todo(Vandal Random)
Bond des ventes trimestrielles du géant chinois du commerce en ligne JD.com(Boursorama)
MediaMarkt’s marketplace sales double(Ecommerce News)


































