GMOグローバルECの横川です。
ライブコマースと聞くと、中国を思い浮かべる人が多いと思います。
有名なインフルエンサーが長時間にわたって次々と商品を紹介し、「残りわずか」「今だけ」と視聴者を盛り上げながら大量の商品を販売する。中国では巨大な市場になりました。
一方、欧米では中国ほどライブコマースが普及していません。
そのため、「欧米人にはライブコマースという販売方法そのものが合わないのではないか」と考えられることもありました。ところが、その見方を少し変える存在が出てきています。
ライブショッピングサービスの「Whatnot」です。
Whatnotは、トレーディングカード、ヴィンテージ商品、スニーカー、コレクター商品などを中心に成長してきました。興味深いのは、中国型ライブコマースのように、巨大インフルエンサーが大量の商品を販売することを中心とした仕組みではないことです。
参考:The live-streaming sales sector in the United States has grown into a $20 billion “behemoth”.
むしろ主役になるのは、そのジャンルの商品について非常に詳しい販売者です。
「これは何年頃の商品です」
「通常の商品とはここが違います」
「この状態ならこのくらいの価値があります」
「こういう人ならこちらの商品のほうがおすすめです」
専門店の店主と話しながら買い物をする感覚に近いともいえます。
つまり、ライブコマースが欧米で受け入れられなかったのではなく、「中国で成功したライブコマースをそのまま欧米へ持っていく」という方法が合わなかった可能性があります。
■中国型でもTikTok型でもない第三のライブコマース
ライブコマースを大まかに整理すると、面白い違いが見えてきます。
中国型は、「巨大なトラフィック × スーパーインフルエンサー」
TikTok Shop型は、「アルゴリズム × コンテンツによる偶然の発見」
そしてWhatnot型は、「専門コミュニティ × 商品に詳しい販売者」です。
Whatnotを利用する人は、何となく動画を見ていたら商品が出てきたというより、「カードが好き」「ヴィンテージが好き」「このジャンルの商品を探したい」といった、すでにある程度の興味を持っています。そこに詳しい販売者がいる。これは昔から存在する専門店を、インターネット上に再現したようなものでもあります。
■実は日本の商品とは相性がいい
この仕組みだけを見ると、日本の商品との相性はかなりよさそうです。日本には、非常に狭いジャンルの商品について驚くほど詳しいメーカー、職人、専門店がたくさんあります。世界中に何百万人もの顧客を集める必要はありません。世界に数百人、数千人しかいないとしても、その商品が本当に好きな人たちに向けて、詳しい人が深い話をする。大量販売ではなく、専門性そのものを価値にするのであれば、日本企業にも十分チャンスがあります。
……と言いたいところなのですが、ここで日本特有の問題が出てきます。
■「前に出たがらない日本人」という問題
Whatnot型ライブコマースでは、商品について詳しい人が話すことが重要です。ところが日本では、その「一番詳しい人」が必ずしもカメラの前で話したい人とは限りません。
SNSのプロフィール写真で、本人写真ではなく、イラスト、風景写真、ペットの写真などにしている率が日本人は異様に高いと言われるほど、自身を表に出すことを嫌がる国民性があります。そのため、日本の仕事の仕方と親和性の高い分野がでてきても、最後は性格問題で結果にならない可能性があります。
さらに越境ECとなれば言葉の壁があります。日本語なら説明できても、海外の視聴者から英語で質問された瞬間に難易度が一気に上がります。
■そこでAIを一枚挟んでみる
ところがAIの進化によって、この問題はかなり解決できる可能性があります。
例えば日本人の専門家は、日本語で話せばいい。AIがリアルタイムで英語字幕を表示する。
海外の視聴者が英語で質問したら、日本語に翻訳する。専門家は日本語で答え、それをAIが再び英語にする。
音声翻訳がさらに自然になれば、日本語で話している本人の声に近い状態で外国語を話させることもできるでしょう。
すると、
日本人専門家
↓
AI通訳
↓
海外消費者
というライブコマースが成立します。さらに進めば、本人が画面の前に出る必要すらなくなるかもしれません。商品を映しながら、専門家は裏側で日本語で説明する。その内容をAIホストやアバターが外国語で紹介する。海外から質問が来ればAIが翻訳し、専門家に伝える。
つまり、
「商品を知っている人」と
「人前でしゃべる人」を
分離できるわけです。
■ただし、全部AIにしてはいけない
ここは重要です。
Whatnot型ライブコマースの魅力は、「この人は本当にこの商品が好きなんだ」「この人は詳しいから信用できる」という人間同士の信頼にもあります。すべてをAIに任せてしまったら、その魅力まで消してしまう可能性があります。
だから当面は、
専門知識・経験・判断・商品の背景 =人間
翻訳・字幕・外国語音声・進行補助 =AI
という役割分担が現実的でしょう。AIに人間を置き換えてもらうのではありません。
「英語が話せない」
「カメラの前が苦手」
「ライブ配信の進行が苦手」
といった、本来の商品価値とは関係のない弱点だけをAIに補ってもらうのです。
■そして、そのライブをAIも見ている
さらにAI時代には、もう一つ面白いことが起こります。
専門家がライブで話した内容そのものが、貴重な商品情報になる可能性があります。
「この商品はこういう人に向いています」
「似ている商品との違いはここです」
「この年代の商品だけ仕様が違います」
「こういう用途ならこちらを選んだほうがいいです」
これは購入者にとって有益な情報ですが、同時にAIにとっても非常に価値のある情報です。
将来、消費者がAIに、「私にはどの商品がいい?」と相談して商品を購入することが当たり前になれば、このような専門家の知識がAIの商品選択にも影響するかもしれません。
するとライブコマースは、「その場にいる人に商品を売る場所」だけではなく、「商品についての専門知識をインターネット上に蓄積する場所」という意味まで持ち始めます。
■日本は中国型ライブコマースを真似しなくてもいい
これまでライブコマースというと、中国の成功例を見て、
「日本でもインフルエンサーを使おう」
「長時間ライブをやろう」
「その場で大量に売ろう」
という発想になりがちでした。しかしWhatnotの成長を見ると、別の可能性が見えてきます。必要なのは、有名人ではないのかもしれません。商品について本当に詳しい人が、小さくても熱量の高いコミュニティとつながる。そして日本企業の場合、その間にAIを入れる。
日本人専門家
↓
AI通訳・AIホスト
↓
海外のファン
さらに将来的には、
日本人専門家
↓
AI販売員
↓
購入者側のAI
という形になる可能性もあります。そうなれば、越境ECで重要なのは「英語を流暢に話せる人」ではなくなります。むしろ、「その商品について、どれだけ語るべきことを持っているか」のほうが重要になります。
中国型ライブコマースをそのまま輸入する必要はありません。
Whatnotが欧米市場で示した「専門家コミュニティ型」という考え方に、日本人が苦手とする部分を補うAIを組み合わせる。これは日本の中小企業や専門店にとって、意外に面白い越境ECの形になるかもしれません。

































