こんにちは。GMOグローバルECの横川です。
タイにおいて、ECおよびデジタルプラットフォームに関する新たな競争ガイドラインが発効しました。
参考:Thailand: TCCT e-Commerce Guideline Now Effective
一見すると、プラットフォーム運営に関する細かなルール整備に見えますが、その本質はもっと大きな流れの一部です。
この動きは、インドネシアの規制強化と非常によく似ており、越境ECの前提そのものが変わりつつあることを示しています。
参考:インドネシアの中国系EC規制が示す本質
タイの新ガイドラインのポイント
今回、タイ競争委員会(TCCT)が発効したガイドラインは、ECプラットフォームやマルチサイド・プラットフォームの行為を広く対象としています。
特に重要なのは、単なる価格競争ではなく、「プラットフォームの振る舞い」そのものを規制対象にしている点です。
具体的には以下のような行為が問題視されています。
- 原価割れ販売や過度な手数料
- 価格操作や価格差別
- 自社商品の優遇(self-preferencing)
- 検索順位や表示の操作
- 特定の決済・物流への誘導
- 出店者データの不当利用
- アカウント停止や掲載削除の恣意的運用
つまりタイは、ECを単なる販売チャネルではなく、「アルゴリズム・データ・決済・物流が一体となった競争インフラ」として捉え始めています。
インドネシアとの共通点
この方向性は、インドネシアの規制と非常によく似ています。インドネシアはさらに踏み込み、以下のような措置を取っています。
- 越境直販への価格制限(100ドル未満の輸入制限)
- ソーシャルコマースでの決済禁止
- 国内事業者保護の強化
- 表示義務(原産国・言語・認証)
- プラットフォームの監視責任
一見すると規制内容は異なりますが、両国に共通する「狙い」は明確です。
共通する4つの狙い
第一に、国内産業の保護です。
極端な低価格商品の流入によって、地場企業が崩壊することを防ぎたい。
第二に、競争の透明化です。
アルゴリズムや表示順位といった「見えない優遇」を放置しない。
第三に、データ支配への警戒です。
プラットフォームが出店者のデータを使って競争優位を築くことを防ぐ。
第四に、消費者保護です。
商品がどこから来て、何でできているかを明確にする。
タイは「競争のルール」を整備し、インドネシアは「市場への入口」まで制御し始めている。この違いはありますが、方向性は完全に一致しています。
世界の潮流
この流れは東南アジアに限った話ではありません。世界全体で、ECは「成長産業」から「規制対象のインフラ」へと位置づけが変わっています。
- デジタル市場の寡占化
- プラットフォームの支配力
- AIによる推薦のブラックボックス化
- データの囲い込み
これらに対して、各国が同時に動き始めています。つまり今後は、
「売れるかどうか」ではなく
「どのルールの中で売るか」
が問われる時代になります。
日本企業が採るべき戦略
では、この環境で日本企業はどう動くべきか。結論から言えば、
越境ECを「出品作業」ではなく、「市場参入設計」として捉え直す必要があります。
① 市場ごとに戦略を分ける
これからは国ごとにルールが大きく異なります。
- 直販が可能な市場
- 現地パートナーが必要な市場
- 輸入制限が強い市場
それぞれで戦い方を変えなければなりません。
つまり、
「どこで売るか」ではなく
「どう入るか」
が重要になります。
② プラットフォーム依存を避ける
タイ型の規制は、プラットフォームのルール変更リスクを示しています。
- 表示順位の変化
- 手数料の変更
- アカウント制御
これらに依存しすぎると、ビジネスが不安定になります。したがって、
- 複数チャネル運用
- 自社ECの強化
- マーケットプレイスの使い分け
が不可欠になります。
③ 商品データを強くする
これからのECは「説明できる商品」が強くなります。
- 原産国
- 素材
- 用途
- 安全性
- 認証
- 使用条件
これらを構造的に整理し、どの国でも通用する形にすることが重要です。これは規制対応であると同時に、AIに選ばれるための条件でもあります。
④ 低価格競争からの脱却
インドネシアの規制が示しているのは明確です。
「低価格 × 大量流入 × 直送」モデルは警戒されている。
つまり今後は、
- 品質
- ストーリー
- 製造背景
- 信頼性
で選ばれる商品が優位になります。日本企業にとっては、むしろ追い風とも言えます。
ただ、今回の規制の流れを「日本企業にとって追い風」と捉えること自体は間違っていませんが、それは「売れるようになる」という意味ではありません。本質は、「勝ち方がハッキリする」という点にあります。低価格・大量流入モデルが制限されることで、品質や信頼、ストーリーといった日本企業の強みが評価されやすくなる一方で、高単価商品の構造上、購入頻度そのものが上がるわけではありません。つまり、競争環境は改善されるが、回転率は自然には伸びない。この前提に立つと、これから求められるのは「どう売るか」ではなく、「このモデルでどう伸ばすか」という設計です。追い風とは、楽に売れる状態ではなく、勝てる条件が明確になる状態を指しているのです。
まとめ
タイのガイドラインとインドネシアの規制は、同じメッセージを発しています。それは、
「ECは自由競争の場ではなく、設計された市場である」
ということです。これからの越境ECは、
- ルールを理解し
- 市場ごとに設計し
- 説明可能な商品を作り
- 依存を分散する
という戦略が不可欠になります。
「どこに出すか」ではなく
「どのルールの中で勝てるか」
この発想への転換が、次の成長を分けるポイントになります。ミス廃止で関税がかかります)、「一定価格以下の商品を越境ECで販売禁止」という案も面白いですね。


































